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ホワイトハウスの主人は誰か

ドイツの週刊紙『ツァイト』の9月4日号に表題の記事がありました。アメリカのアイゼンハワー大統領が1961年に行った大統領離任の演説を取り上げたものです。

多くの人が「アメリカに神の祝福を」といった愛国調のフレーズを期待しているなか、アイゼンハワーは、アメリカを脅かす軍産複合体の存在に警告を発しました。

アイゼンハワーによると、当時、軍需部門における雇用者の数は350万人で、毎年の国防費は全国民の所得額を超えていました。彼は「政界は軍産複合体の過剰な影響力を警戒しなければならない。コントロール不可能な力は恐ろしい結果を招く危険がある。軍産複合体がわれわれの自由と民主主義を脅かすものであってはならない」と述べました。

第2次世界大戦時にヨーロッパ連合軍最高司令官、戦後はNATOの総司令官も務めた生粋の軍人であるアイゼンハワーが、こうした警告を発せざるをえないほど、軍民の産業の結びつきが強くなったのでしょう。

そもそもアメリカは、第2次世界大戦の前までは、反軍国主義的な社会だったといいます。ヨーロッパから移民してきた人々は、「自分たちの生活は自分たちで守る」として、自らは銃で武装するものの、国家が強大な軍事力をもつことをよしとしなかったのです。

たとえば、スコットランドから移住し、後に鉄鋼会社を興して成功を収めたカーネギーは1899年に反帝国主義同盟を立ち上げています。軍事費の増大は、国民の生活を脅かす無駄と考えられていました。1920年代に国際社会における軍縮にイニシアチブをとったのはアメリカです。

日本国憲法には、こうしたアメリカの伝統が反映されたと思います。

ところが、第2次大戦の勝利がアメリカをおかしくしてしまった。原子爆弾の開発に成功したマンハッタン計画に始まって、その後、民間の先端技術が軍事に深く組み込まれていく。朝鮮戦争、ソ連との軍拡競争により、軍産複合体は巨大化していくが、アメリカの繁栄の影に隠れてしまった。いみじくも、その危険性を察知したのが大統領本人だったのでしょう。
『ツァイト』紙は、アイゼンハワー演説がいまもアクチュアルな問題を提起しているといいます。

2008年のアメリカの国防費のうち、イラクとアフガニスタンに充てているのは6,230億ドルだそうですが、これは国防省のなかの予算であり、足りない戦費は、たとえばエネルギー省の原子力爆弾の研究開発費から捻出されているといいます。ですから軍事費は実際にはどのくらいかかっているのか、正確には把握されていないというのです。

自国経済において軍産複合体の比重が大きくなれば、その国は世界地図を見渡して、「次の戦場は?」と探さざるをえなくなるのではないか。軍事技術から派生して発展したIT技術は、金で金を生む複雑な金融部門も肥大化させました。

私たちはいま、深く蝕まれたアメリカ経済の姿を見ているように思えます。

先日、ブッシュ大統領は金融危機対策のための公的資金投入について理解を求めるため、マケインとオバマの両大統領候補をホワイトハウスに招きたいと述べました。現役の大統領が共和党、民主党の候補者を呼ぶなんて、聞いたことがありません。「アメリカ経済は異常な時期を迎えている」と語るブッシュ大統領の表情は、自分の手に負えない状況に置かれて、判断能力を失った者のそれに見えます。

こうしたなか、原子力空母が米軍横須賀基地に配備され、麻生首相は国連演説後に「集団的自衛権は認められるべき」と発言し、ブッシュのアメリカを信奉する小泉純一郎氏が議員を引退するというニュースが入りました。 小泉氏は「引き際」を強調していますが、私には、自らの構造改革への批判の高まりにいち早く気づいて「ケツをまくった」ように見えます。小泉改革を実質的に担った竹中平蔵氏が2年前、小泉内閣退陣とともに議員を辞職したときと同じ臭いがするのです。

日本の政治家の言動だけを見聞きしていると、かえって私たちの未来の行方を見誤るのではないか。最近、そんな気がしてなりません。

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