旧「マガ9ブログ」アーカイブです

オペラグラス

その人は成田空港内で、鞄からおもむろにオペラグラスを取り出して、両目にあてました。

「な、何やってんですか?」
「飛行機の発着時刻のボード見ようと思って......」

確かに、搭乗者用入り口の上に設置されている大きな黒の時刻表を、オペラグラスで眺めています。その姿を私が横で見ていると、

「ぼく、目が悪くてさ、よく見えないんだよね」

聞けば、海外出張のときは必ずオペラグラスを持参しているとか。

「校庭に白線引くための石灰があるでしょ。小学校のとき、同級生にそれを目に入れられてさ、それから視力が落ちちゃったんだ」

ひどい話だ。

「映画なんてさ、字幕が読めないから、ずいぶん行ってないなあ」

というか、眼鏡、買ったほうがいいんじゃないですか?

「うーん、でも、眼鏡かけると、見たくないものまで見えちゃうからねえ」

私は相槌を打ちたいような、打ちたくないような。でも、その人がいつも穏やかなのは「いやなもの」を見てないせいなのだと納得しました。「ときどき鋭い指摘をする」のは、余計なものを見ないから、本質をつけるに違いない、とも。

彼の世界観に興味がわきました。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://daily.magazine9.jp/mt/mt-tb.cgi/221

コメントする