歴史ある駅弁の掛紙に「御辨當」と印刷されているものがあります。弁当を正字体で書くとこうなりますが、同じ「弁」でも、弁護士、弁別、五弁の花は「辯護士」「辨別」「五瓣の花」とそれぞれ違います。どの字にも含まれている、左右にある「辛」の字の説明から参りましょう。
辛は入れ墨用の針の形を表しています。誓い合い、それに背いたときには入れ墨の刑を受けますという意味で、その針を二つ並べたものが「辛辛(これで一字)」です。これを音符として、その間に神への誓いのことばである「言」を入れて、裁判で誓約して争うことを「辯」といいます。
同じように間に「刀(りっとう)」を入れたのが「辨」。先ほどの裁判で双方の理非を明らかにして「さばく」という意味です。そこで「辨別」は見分け、わきまえるということになります。「弁当」も「辨当(辨當)」でしたが、便利であることを指すことばから変化して、便利な携行食ということでこうなったようです。間に「瓜」を入れたのが「瓣」で、瓜の果肉の中の種を指し、のちに花びらの意味になりました。山本周五郎の時代小説『五瓣の椿』も有名です。
以上の三字は、常用漢字表ではすべて「弁」を用いることになっています。形が似ているからまとめてしまったのかもしれませんが、元の字を見てみるとそれぞれの成り立ちの違いがよく分かります。ちなみに本来の「弁」の字には、「かんむり」の意味くらいしかないそうです。
(参考文献:白川静『常用字解』平凡社)