以前、ロシアで介護用製品の売り込みの可能性について調査したことがあります。ロシア人の平均寿命は、日本に比べて高くありませんが(男性にいたっては50歳後半という短さ)、中国同様、経済成長によって国民の所得が増えるとともに、高齢者層が拡大すると予測されるので、需要が高まるだろう――というのが日本のメーカーの期待でした。
ところが、誤算だったのはロシアの高齢者にお金がないこと。多くのお年寄りは、新生ロシアの経済発展による恩恵を受けることなく、つましい年金で生活しているので、日本製の高級介護用品を買えるほどの所得はありません。
ゆえに売り込みの対象は、老齢の親をもつ富裕層だろうとの結論になったわけですが(中国ではお金持ちが自分の親のために高価な日本製介護用品を買うそうです)、考えてみれば、日本のように「お金をもっている年寄りが多い国」の方が世界では少数派なのではないか。
おじいちゃん、おばあちゃんが孫に会うたびにお小遣いをあげるといった習慣は(他のアジア諸国にはあるのかもしれませんが)、ヨーロッパやアメリカではあまり聞きません。マイホームを建てるのに親から金銭的な援助を受けるというのも同様です。
しかし、これから日本の高齢者の所得は確実に減っていく。お金のないおじいちゃん、おばあちゃんが増えてくると、これまで親のすねをかじってきた世代は、親に対する態度が冷たくなるかもしれない。「何とかの切れ目が縁の切れ目」という言葉のように。
しかし、一方で、親と子が互いに金銭的な期待をもたなければ、両者が自立した関係につくるきっかけにもなりうる。老人をターゲットにした「振り込め詐欺」も減るかもしれない。
単純化した物言いですみません。昨今の日本では、40代以上の世代に「親への甘え」が顕著なのではとの印象があるので、そんな考えが頭のなかを巡ったのでした。
いまの家族が抱える問題は、ときに高度成長時代の親子関係が続いていることに起因している。そんな思いも抱いています。
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