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日めくり編集メモ 041

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秋の虫のすだく音がにぎやかです。スズムシのリーンリーン、マツムシのチンチロリン、コオロギのコロコロリー、クツワムシのガチャガチャ...。大合唱の中、リュリュリュと美しく鳴く虫が。カンタンです。

カンタンは漢字で書くと邯鄲。中国河北省の地名です。戦国時代の趙の都として栄えました。また、「邯鄲の夢」あるいは「邯鄲の枕」という言葉でも有名です。貧しい少年・盧生がこの町で、道士・呂翁から思いのままになる枕を借りて横になったところ、夢の中で出世して富貴栄華を極めたが、目が覚めると枕元の黄粱(粟)がまだ煮えてもいない短い間のことであった...という故事から来ています。

 

この話が能に採り入れられ、さらには長唄や河東節、箏曲や常磐津などにも移植されました。人の世の栄枯盛衰ははかないという主題が日本人の共感を呼んだのでしょうか。さらには旅行中に寝ている人から泥棒を働く人を「邯鄲師」、泥棒の隠語で枕を「邯鄲」と言うそうですから、言葉の広がりに驚かされます。

 

さて、虫のカンタンはコオロギの仲間。スズムシに似ていますが、彼らほど黒っぽくなく、透明っぽい黄緑です。美しく、しかし少し物悲しい鳴き声が「人生のはかなさ」を感じさせたのでこの名が付いたのでしょうか。なお、中国では「天蛉」というそうです。

(参考文献:『自然の愉しみ方 秋』山と溪谷社、丸谷才一『男のポケット』新潮社、『広辞苑 第二版補訂版』岩波書店)

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