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日めくり編集メモ 065

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東京・上野公園には「国立西洋美術館を世界遺産に!」と書いた幟がはためいています。昨年の世界遺産委員会では「情報照会」となりましたが、2011年の正式登録を目指しての活動の一環です。

国立西洋美術館の収蔵品は、川崎財閥の松方幸次郎によって集められた「松方コレクション」をもとにしていますが、これは第2次大戦後フランス政府に没収されていたもの。1953年、新美術館の建設を条件として日本に返還されますが、この設計者として白羽の矢が立ったのがル・コルビュジエでした。彼はフランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエとともに世界の近代建築の3大巨匠といわれています。

 

ル・コルビュジエはスイス生まれでのちにフランス国籍を取得しています。「ドミノシステム」「近代建築の5原則」「モデュロール」でモダニズム建築を確立したことはあまりにも有名ですが、彼は生来自己顕示欲が旺盛で、無名の頃から自分が有名になったときのことを考えて、どんな小さなスケッチでも捨てずに取っておいたそうです。この予想は当たり、建築界ではそれが貴重品のように扱われるようになりました。

 

1959年竣工の美術館は、ピロティやスロープ、自然光を生かした照明など、ル・コルビュジエの建築の特徴が表れていますが、エントランスのフレームレスガラスも当時は画期的なものだったとのこと。また19世紀大ホールを中心に、無限に伸びていく渦巻き状の展示回廊は、彼が25年以上も温めていた構想が実現したものだったのです。日本唯一のル・コルビュジエ建築であり、その後の日本建築に多大な影響を与えました。

 

この美術館の実施設計は弟子である前川國男、坂倉準三、吉阪隆正が行いました。いずれも日本建築界の巨匠です。国立西洋美術館の目の前には東京文化会館がありますが、これは前川の作品。世界遺産登録がどうなるか分かりませんが、ともあれ師弟の名建築が並んでいるのは実に壮観です。

(参考資料:台東区「国立西洋美術館を世界遺産に」ホームページ、松永安光『建築入門 世界名作の旅一〇〇』彰国社)

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