タイガーマスクの主人公・伊達直人を名乗っての、福祉施設への贈り物が全国に広がっています。一過性で終わらせてほしくない現象ですね。このタイガーマスクのアニメ版は1969年から71年まで放送されましたが、当時の社会問題を取り上げたエピソードがいくつかあります。
そのひとつ、第55話「煤煙の中の太陽」は、4大公害の四日市喘息をテーマにしたものです。巡業のため三重県四日市に来た日本プロレス一行は、その空気の汚れに驚きます。その前に現れた「あすなろ院」の少年は、同じ孤児院の幼い少女が喘息に苦しむのを見かねて、煙突に登って工場の操業をやめさせようとします。それを見て「あんなことをしても私の子供は戻ってこない」と冷笑する、公害でわが子を失い精神に異常を来した老婆も。
現場に駆けつけたタイガーマスクは途方に暮れた末、「空気のきれいな丘にあすなろ院を移転させる」と口約束してしまいます。一プロレスラーには重過ぎる問題に首を突っ込んでしまい、うなされるタイガー。しかしこれが新聞記事になり市議会が孤児院の移転を決定しますが、それは町全体の抜本的な解決ではない、という苦い結末でした。タイガーたちが丘の上から見下ろす町には依然、汚れた空気が立ち込めているのですから。
最後のタイガーのモノローグは「この公害の街に青い空と澄んだ水を取り戻すために、我々は立ち上がらなければならない。すべての市民の人々が明るい笑顔を甦らし生きることの素晴らしさを感じるのは、いったいいつになるのだろうか」というものでした。子供の貧困に光を当てた昨今の現象は、社会問題に真正面から取り組んだエピソードもあるタイガーマスクの精神の衣鉢を、まさに継ぐものだと言えるでしょう。