「14歳の映画監督」という言葉が独り歩きしているようですが、その仲村颯悟(りゅうご)監督の『やぎの冒険』は、食べる―つまり命をいただくとはどういうことか、考えさせられる映画でした。
沖縄にはヤギ(ウチナーグチでヒージャー)を食べる文化があります。舞台はヤンバル。食べられるはずのヤギがはずみで逃げ出してしまい、追いかけっこが真剣かつユーモラスに繰り広げられます。対照的な、ヤギをペットとして見てしまう那覇からやって来た裕人と、ヤギを屠って一人前とする文化に育つヤンバルのいとこ琉也。2人の差が実に興味深く、かつまた裕人の成長が瑞々しく描かれていました。
後からじわりと来る静かな感動がありました。果たして裕人はヤギを食べる文化をどう受け入れたのか。解決されないこともそのまま観客に投げかけられる。心地よい突き放し加減でした。登場してくる人物造形の確かさ。主役の小学生はもちろん、出演者が皆名演で、殊に粗暴な伯父・裕志を演じる仲座健太さん(本職は漫才コンビ・ハンサムのひとり)の演技が光りました。絵葉書ではない美しい映像も魅力です。
この映画は昨年9月から沖縄全県を巡回し、多くの観客を集めました。今年に入ってからは本土での上映が始まりました。現在は東京と横浜だけですが、2月には大阪と神戸で、さらに各地での上映が予定されています。先日15歳になったばかりの仲村監督の次回作は、辺野古を舞台にしたジュゴンの映画を自主制作で、とのこと。ドキュメンタリーなのかドラマなのか未定のようですが、実に楽しみですね。
(参考資料:映画「やぎの冒険」オフィシャルサイト、hands WEB magazine「やぎの冒険」映画監督、仲村颯悟(14歳)インタビュー)