伊豆大島では、3月21日まで毎年恒例の「第56回伊豆大島椿まつり」を開催中です。ツバキは木へんに春と書く字のとおり、春の訪れを告げているかのよう。しかし、本来この字は違う意味を持っています。
漢字はその名の通り中国で生まれたものですが、日本での独自の読み方をするものを国訓といいます。椿はセンダン科の「ちゃんちん(香椿)」という木のこと。また、変わった出来事のことを「椿事(書き換えで珍事)」と言いますが、これも日本でのことで、「樁(木へんに舂)事(とうじ)」の誤用が広まったのだそうです。椿は荘子に出てくる太古の霊木でもあることから、珍に通じて用いられたのかもしれません。
四季で言うと続いて夏。木へんに夏、つまり「榎」は「えのき」です。徒然草に「榎の僧正」の話があったり、江戸時代には一里塚に植えられるなど古くから身近な樹木ですが、これも国訓。榎は中国では「ひさぎ」のことで、面白いことに木へんに秋、つまり「楸」でもおなじものを指すそうです。ただ、ひさぎはキササゲかアカメガシワの古名と言われていますが、何の植物を指すかは不詳だとのことです。
木へんに冬、つまり「柊」で「ひいらぎ」と読むのはちょっと変わっています。ひりひり、ずきずきと痛むことを古語で「ひいらぐ(ひひらく、ひいらく)」といい、新撰字鏡では「疼」の字を使いました。ここから来ているというのです。ここでの冬は鼕(トウ)に通じ、この字は鼓を打つ意味ですので、間をおいて痛む・うずくことを表しています。木へんで1年を通してみましたが、本当に春が待ち遠しくなってきました。
(参考資料:『大漢和辞典』大修館書店、『携帯新漢和中辞典』三省堂、『日本国語大辞典』小学館、『大辞泉』小学館)