3月になりました。スギ花粉も飛び始め、寒暖を繰り返しながらもだんだん春が近づいています。有名な水戸・偕楽園の梅も5分咲きだそうです。/~梅は咲いたか 桜はまだかいな...。
梅は中国原産。日本には奈良時代以前に伝来したといわれていますが、当時の中国語の音のまま呼ばれていたとのこと。確かに現在でも中国語では「mei」ですね。これに母音をつけて調子を整え、「うめ」という日本語になったのだそうです。万葉集でも山上憶良が「春さればまづ咲く宿の烏梅(うめ)の花ひとり見つつや春日(はるひ)くらさむ」と詠んでいます。
このような観梅の文化は、植物である梅自体の伝来とともに中国から輸入されたものですが、やはり文化より実用。梅の実は加工されて食用、薬用に、幹や根の煎じ汁が衣料の染色に用いられました。中でも梅干は平安時代には既にあり、保存食品としてももちろんのこと、食欲増進やのどの渇きの抑制、さらに戦乱の際の兵糧として大いに重宝されたのです。
京都御所・紫宸殿の正面に、右近の橘、左近の桜があることは有名ですが、これもかつては梅が植えられていたそうです。947年頃に桜と替わりました。また、先述のように万葉集では梅が多く詠われましたが、鎌倉時代の新古今和歌集では、本歌取りで桜に替えた例もあるとのこと。実用では定着した梅も、観賞する花としては、日本人の好みとは違ってしまったようです。とはいえ、やはり愛らしい梅の花に春の訪れを感じずにはいられません。
(参考資料:『世界大百科事典』平凡社、『国史大辞典』吉川弘文館、白川静『常用字解』平凡社)