先日、近所の公園を散歩していたら、青空のもと白い花をいっぱいにつけたコブシの木がありました。ひときわ高いその木は、彼岸近くになっても吹き続ける寒風の中、凛として立っていました。
コブシは高さ20メートルにも達し、春先にほかの木がまだ冬の装いなのに、それらにさきがけて、6弁の白い花を木全体につけます。香りもよく、花からは香水を作るほど。樹皮からは油も取れ、薬用にも使われます。北海道、本州、九州と韓国の済州島に分布しますが、なぜか四国にはありません。
漢字では「辛夷」と書きますが、これは本来モクレンの漢名。まあ実際モクレン科の植物なのではありますが。また、この花が咲くのを見て農作業を始めるところも多く、「田打ち桜」などと呼ばれることもありますが、これは近縁のタムシバの間違いということもままあるということです。
名前のコブシは、コブシハジカミの略で、つぼみが開く直前の形が子供の拳の形に似ているところからつけられたそうです。千昌夫さんの「北国の春」にも出てくるコブシですが、平安末期に編まれた続詞花和歌集に、こんな歌があります。「時しあればこふしの花も開けけり君が握れる手のかかれかし」(よみ人知らず)
(参考資料:『日本国語大辞典』小学館、『世界大百科事典』平凡社)