先日の高円寺での反原発デモでは、東京電力を批判するプラカードが見られました。そこに多く描かれたのは東電のシンボルマーク。1987年からの、このマークはグラフィックデザイン界の重鎮・永井一正さんの手によるものです。
永井さんの手がけたもっとも有名なマークといえば、1986年からのアサヒビールのロゴかもしれません(クリエイティブディレクターとして)。それまでの旭日マークをあしらったレイモンド・ローウィのラベルに代わってのデザインはまさに新鮮でした。ほかにスルガ銀行や三菱UFJフィナンシャルグループ、JA(農協)や沖縄海洋博のマークなども知られています。
以前の東電のマークは円の中にTの字を嵌め、中央に電気の稲妻を配置したものでした。関西電力は電流を示すアンペア(A)と電圧を示すボルト(V)を組み合わせたものを昔から使用していますが、他の電力会社はどこも稲妻を使ったマークでした。1980年代に電気事業連合会の各社がCIを導入したなかで、現在でも東北電力は昔ながらのTとDの字が稲妻を表すマークです。
永井さんは東電という企業の公共性を考え、稲妻の鋭さとは正反対の円によって電力がもたらす豊かさ、明るい家庭の温かさなどを表現したかったと語っています。しかし今回の、まったく収束の兆しの見えない福島原発事故によって、今やそのマークは怨嗟の対象になってしまいました。永井さんも、こんな使われ方をされるとは思ってもいなかったことでしょう。
(参考資料:日本デザインセンターホームページ、『日本のロゴ』『日本のロゴII』成美堂出版、太田徹也『CI マーク・ロゴの変遷―進行形で見る企業イメージのかたち』六耀社)