東京電力福島第一原子力発電所事故の収拾に当たる前線基地として使われるようになったJヴィレッジ。本来、日本サッカーのナショナルトレーニングセンターですが、この設置には東京電力が大きく関与しています。
福島県双葉郡にあるJヴィレッジのオープンは1997年7月。東電が広野火力発電所の隣接地およそ50ヘクタールに130億円をかけて建設し、完成後に福島県に寄贈されました。東電がJリーグの理念に賛同したのが建設理由といわれますが、この提案と同時に福島県に伝えられたのは、福島第一原発7、8号機の増設計画。寄贈時に増設の正式申し入れをする予定でしたが、動燃(動力炉・核燃料開発事業団)のナトリウム漏れ事故など相次ぐ問題の影響でできませんでした。
これは当然、地元への懐柔策ですが、日本サッカー協会(JFA)やJリーグにとっては咽喉から手が出るほど欲しかった施設であることは間違いありません。天然芝のグラウンドが11面あり、屋内練習場、宿泊施設、さらにはメディカルセンターまで。サッカーエリートの育成拠点として整備され、モデルとされたドイツのデュイスブルク・スポーツシューレにも匹敵する環境です。2002年日韓ワールドカップの際にはアルゼンチン代表がキャンプを張ったこともありました。
そのJヴィレッジが、現在東電の起こした原発事故の対応拠点となっていることは何という皮肉でしょう。福島第一原発からは20キロ圏内の警戒区域。つまり原則立ち入り禁止です。果たしてJFAの言うとおり、再びここ「サッカーの聖地」へ戻れるのでしょうか。当時相次いだ動燃の不祥事について、当時の荒木浩東電社長はこう言っています。「われわれ(民間)の常識では考えられない。原子力推進に大きなマイナス」。この言葉がなんとも心に虚しく響きます。
(参考資料:『財団法人日本サッカー協会75年史』財団法人日本サッカー協会、「原発の地にサッカー施設 東電出資、微妙な存在」読売新聞1997年4月2日付、「サッカー施設完成、寄贈へ 東電「原発増設」言いだせぬまま」朝日新聞1997年5月20日付)