石川県能登半島の東側、七尾湾に抱かれるように位置する能登島。江戸時代には流刑地となった歴史がありますが、今はガラス美術館や水族館など文化施設にキャンプ、海水浴と、リゾートの島です。
能登島は周囲約72キロ、面積およそ46平方キロメートルの小さな島です。手付かずの自然の残るこの島の歴史は古く、縄文時代の遺跡も。平安時代には伊勢神宮の御厨(神領)となり、船材などを森から伐採しました。越中国司だった大伴家持は訪れた際に、旋頭歌の形で「鳥総(とぶさ)立て船木伐るといふ能登の島山 今日見れば木立繁しも幾代神(かむ)びそ」と詠んでいます(万葉集)。その頃も神々しいほどの木々が茂っていたのでしょうか。
寛永年間、幾つかの集落が流刑地となり半島との交通が制限されたとはいえ、士分の流人が多く、総じて物騒なことはなかったようです。明治期からは燐鉱やマンガン鉱が採掘されましたが、主な産業は農業や漁業ののどかな島。1982年に能登島大橋が開通し、半島と陸続きになってからは観光業にも力を入れるようになりました。透明度の高さ、波の穏やかさ、海岸の美しさによって海水浴は有名ですが、キャンプ場や水族館なども人気を集めています。
七尾北湾を望む丘陵地にある「石川県能登島ガラス美術館」は、公立では日本唯一のガラス専門美術館。毛綱毅曠設計の宇宙船のような外観に、ピカソ、シャガール、ダリといった世界的巨匠の作品や、中国清朝のガラス工芸などが収められています。ベネチアのガラス工芸品が沖合のムラーノ島で作られていたことに倣って、「島でガラスを」と工房が設けられたのが始まり。今や能登島の観光拠点であるとともに、日本のガラス工芸の発信地です。
(参考資料:『角川日本地名大辞典17石川県』角川書店、『日本古典文学大系7 萬葉集四』岩波書店、能登島観光協会ホームページ、石川県能登島ガラス美術館ホームページ)