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日めくり編集メモ 171

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本の街として知られる東京・神保町にある映画館・神保町シアターではこの夏、「戦争と文学」と題して、文学作品を原作にした映画21本が上映されており、一部の古書店でも関連作家・作品のフェアが行われています

この映画特集は、集英社創業85周年記念企画『戦争×文学』の発刊に合わせたものです。ラインナップは、古くは吉村公三郎監督『暖流』(1939年)、田坂具隆監督『土と兵隊』(1939年)から、増村保造監督『兵隊やくざ』(1965年)、木下惠介監督『この子を残して』(1983年)、黒木和雄監督『父と暮せば』(2004年)まで21作品。上映は826日までの日程です。『暖流』は恋愛映画ですが、戦地に赴く若者たちに束の間の夢を与え、熱狂的に支持されました。

前線、銃後を問わず年老いた方々が、自身の戦争体験を初めて語りだすことが多くなっています。このまま語らずに一生を終えたくない、という気持ちもあるのでしょうが、長きにわたってそのつらさを抱えて普通に生活してきたことを思うと、なんともやり切れなくなります。そして同時に戦争に対する怒りが湧きます。抽象的な反戦ではなく、戦争の記憶をいかに残し、それをどう伝えるか。先述の個人的な戦争体験とともに、文学はその伝達に非常に有効だと考えられます。

『戦争×文学』の編集委員を務めている作家の浅田次郎さんは昨夏、戦争に翻弄される人々を描いた一大巨編『終わらざる夏』を上梓しました。この際のインタビューで浅田さんは、「いまならばまだ実際の戦争を体験した方もいらっしゃる。この小説を書いて世に出す、いまがぎりぎりのタイミングではないかと考えました」と語っています。紙の本による全集はなかなか編みにくくなっているのが実情ですが、戦争体験の継承という意味において、後世に残る全集になるでしょう。

(参考資料:神保町シアターホームページ集英社『戦争×文学』ホームページ、「青春と読書」20107月号)

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