激動の2011年もあと1日。本当にいろいろなことがありました。そんな今年、筆者が読んで最も心に残った本は、ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン』(幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店)でした。
ナオミ・クラインさんは1970年生まれのカナダのジャーナリストです。デビュー作『ブランドなんか、いらない』は、反グローバリゼーションの書として世界的なベストセラーになりました。彼女が綿密な調査で解き明かすのは、新自由主義的政策がどのようにして実行されるか―それは戦争、経済危機、恐怖政治、そして自然災害といったショックに便乗してなされる、ということです。南米、南アフリカ、ポーランドやイギリスなど、世界の例を豊富に引き、その論を補強しています。
本書で徹底して批判されるのは、ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派と呼ばれる経済学者たち。彼らが主唱する新自由主義=市場原理主義は、小さな政府、民営化、規制緩和、貿易自由化、社会支出の削減などがお題目で、一切の規制を排し、自由市場にメカニズムに任せればおのずから均衡状態が生まれるとしています。しかしそれは、大企業や投資家の利害と結びつくことで格差を拡大し、拷問に掛けるように人々を悲惨な境遇に追いやるものです。
今年の東日本大震災後、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加問題が活気を帯び、結局野田首相は「交渉に参加する」と決定しましたが、この内容こそ新自由主義的なもの。震災のショックの中、「復興」「再建」の名を借りて住民無視・財界優先の政策を採ろうとしている自治体もあり、この「ショック・ドクトリン」が自分たちに降りかかってこないよう、政策の監視を続けなくてはなりません。ちなみに本書の副題は「惨事便乗型資本主義の正体を暴く」です。
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