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お正月休みに読みたい本、その3/鈴木耕さんのオススメ

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「時々お散歩日記」の著者、鈴木耕さんから届いた「お正月休みに読みたい本」。2010年に亡くなった作家・井上ひさしさんの著書の中からおすすめ作品を紹介してくれました。

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原発事故について、ご意見を伺いたかった方が3人いる。本田靖春さん、筑紫哲也さん、そして井上ひさしさん。どなたにも、もうお聞きできないのが淋しいけれど…。

井上さんが亡くなったのは、2010年4月。もう2年近くが経つ。井上さんの本の大ファンだった僕は、多分、ほぼすべての井上著作を読んでいる。それをもう読めないのが寂しいと、亡くなったときにしみじみ思ったものだった。けれど、昨年から今年にかけて、井上さんの新刊が続々出版された。単行本化されずに眠っていた連載(途中で休載した小説)を、新たに編みなおしたものだ。むろん、僕はそれらをなでさするように、いとおしみながら読んだ。早く読み終えると、もう新しい井上さんが読めない…。スペースがないから足早に紹介する。

 

『一週間』(新潮社)

第2次大戦で捕虜となり、ソビエト・ハバロフスクの収容所に入れられた日本人の、「若き日のレーニンの手紙」をめぐる波乱万丈。

 

『東慶寺花だより』(文藝春秋)

鎌倉の「縁切り寺」と呼ばれるお寺に逃げ込む女たち。たとえば「梅の章 おせん」というように、花にまつわる女たちの、15章にわたる哀しみと切なさの時代小説。

 

『黄金の騎士団』(講談社)

子ども共和国建国の夢を実現すべく、孤児院の少年たちが先物取引の世界で大暴れするという、奇想天外抱腹絶倒!

 

『グロウブ号の冒険』(岩波書店)

カリブ海の宝探し。なぞの漂流船グロウブ号の出現と、ユートピア。井上さんの、『吉里吉里人』以来のユートピアへのこだわりがうかがえる。

 

『一分の一 上・下』(講談社)

 

これは「逆ユートピア」の物語。なにしろ、米英中ソに分割統治されている日本、というのが舞台なのだ。祖国統一を願って奔走する地理学者サブロー・ニザエモーノヴィッチ・エンドー(遠藤三郎のソ連式名称)の破天荒な大活躍、面白くないわけがない。

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どれもが中断された小説だが、その結末を読者が勝手に想像(創造)するのも楽しい読み方なのかもしれない。 (注・『東慶寺花だより』だけは連作短編集)

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