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日めくり編集メモ 268

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今月から政令指定都市となった熊本市に、日本唯一の「赤ちゃんポスト」があります。先日、この在り方を議論する市要保護児童対策地域協議会の専門部会が、報告書を市長に提出しました。

ポストの名前は「こうのとりのゆりかご」。親が育てられない子どもを匿名で引き受けようと、熊本市の慈恵病院が2007年5月に開設しました。このポストに対しては設置前から賛否両論となり、賛成派は「赤ちゃんの命を救う」、反対派は「育児放棄や捨て子を助長する」として意見は噛み合いませんでした。2009年10月から2011年9月までの2年間に預けられた子どもは30人で、設置以降5年間の合計は81人でした。関係者の努力にもかかわらず、うち14人の身元は不明です。

ポストの先進国・ドイツでは、往来で凍死する捨て子をなくそうと「ベビークラッペ(赤ちゃんの寝床)」が設置されています。これは2000年、ハンブルクの保育園に設けられたものが最初ですが、中世の修道院にも似たような施設があったという歴史もあり、現在ではドイツ全土70カ所以上にベビークラッペが設置され、年間40人ほどの赤ちゃんが助けられています。2004年、慈恵病院の理事長など関係者がドイツを視察し、これをモデルに「こうのとりのゆりかご」を設置しました。

報告書では、親の勝手な理由による「安易な預け入れ」と、子どもの身元を保障するための「親の実名化」が指摘されました。しかし、匿名だからこそ緊急避難できる、と病院はこの動きに警戒しています。ただ、子どもの出自を知る権利はやはり保障されなくてはなりません。預けた当初は親の匿名性を担保しても、時間をかけて実名化することで、預ける親の意識を高め、のちには母子関係が再生できればよいのですが…。そこには当然、安全と秘密の保持も求められましょう。

(参考資料:慈恵病院ホームページ、「ゆりかご報告書 「安易な預け」指摘 設置5年で81人に」熊本日日新聞2012年3月30日付)

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