ベテランの歌舞伎役者の訃報が相次ぐ中、80歳の今もなお変わらぬ若々しさで観客を魅了する坂田藤十郎さん。その父であり、昭和を代表する上方歌舞伎役者、2代目中村鴈治郎の命日がきょう4月13日です。
2代目中村鴈治郎は1902年、「ガンジロハン」と親しまれた初代鴈治郎の次男として大阪に生まれました。7歳のとき初代扇雀となり、13歳で少年歌舞伎を旗揚げし座頭を務めて麒麟児といわれました。父が死去した1935年頃から有望株と目され、1941年には4代目翫雀を、1947年には2代目鴈治郎を襲名。しかし戦後、上方歌舞伎の凋落著しく、芸の上での悩みもあって1955年、映画界に転向します。
名匠溝口健二監督の口利きで大映京都と契約し、以後10年間は主に映画俳優として活動しました。主な出演作には、市川崑監督『炎上』『鍵』、小津安二郎監督『浮草』『小早川家の秋』、黒澤明監督『どん底』、川島雄三監督『雁の寺』などがあり、『炎上』と成瀬巳喜男監督『鰯雲』で毎日映画コンクールとブルーリボンの助演男優賞を受賞するなど、歌舞伎で鍛えた演技力は折り紙つきでした。
歌舞伎復帰後は上方和事の担い手として精力的に活躍。1967年人間国宝に認定され、1972年、芸術院会員。息子の2代目扇雀(現藤十郎さん)演じるお初相手の『曾根崎心中』徳兵衛役は上演600回を超えます。立役と女形を兼ね、二枚目から敵役まで幅広い役柄をこなす希代の芝居巧者。歌舞伎から映画へ転じた役者は数多くいますが、その両方の仕事の充実ぶりは、まさに特筆すべきものでしょう。
(参考資料:森西真弓編『上方芸能事典』岩波書店、『日本映画人名事典 男優編〈下巻〉』キネマ旬報社)