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日めくり編集メモ 302

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キネマ旬報ベストテンの常連で「キネ旬男」と呼ばれ、黄金期の日本映画を代表する巨匠・今井正の生誕100年を記念して、東京国立近代美術館フィルムセンターでは「生誕百年 映画監督 今井正」と題した回顧上映を開催します。

今井は1912年、東京・渋谷の寺に生まれました。旧制水戸高校から東京帝国大学へ進学する中でマルクス主義に傾倒、数回検挙されます。大学を中退し、J.O.スタジオ(現東宝)へ入社。当時の同僚には市川崑がいました。1939年、『沼津兵學校』でデビュー。第2次大戦中は自らの信念と反する戦意高揚映画を製作しますが、のちに「私の犯した誤りの中でいちばん大きい」と述べ、隠すことなく率直に反省しています。

 

戦後は、財閥の腐敗を描いた『民衆の敵』、男女交際や民主主義を謳い上げた『青い山脈』、ガラス窓越しのキスシーンで有名な『また逢う日まで』などヒット作を連発。自由を求めて独立し、東宝争議で社を追われた山本薩夫、亀井文夫らとともに独立プロの嚆矢となる新星映画社を設立します。東映に請われてメガホンを取った『ひめゆりの塔』は空前の大ヒットを記録し、当時発足まもない東映の屋台骨は、この作品で固まりました。

 

その後も『にごりえ』『ここに泉あり』『真昼の暗黒』『米』『純愛物語』『キクとイサム』などの作品を世に問い、『武士道残酷物語』ではベルリン映画祭グランプリを受賞。今井作品は戦後民主主義啓蒙映画と言われますが、そのヒューマニズムを根底に、表現の豊かさ、幅広さに舌を巻きます。木下惠介監督や、先日亡くなった新藤兼人監督も同じ年の生まれですので、名映画監督の当たり年だったのかも知れません。

 

※ 「生誕百年 映画監督 今井正(1)」は5月5日から上映していましたが、途中別番組による中断ののち6月26日から再開され7月10日までです。(2)は7月31日から8月26日までの開催となります。

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