『ごん狐』『手袋を買いに』などの童話で今でも親しまれる新美南吉は、来年が生誕100年。これを記念して、札幌・中島公園の北海道立文学館で「特別展 新美南吉生誕100年 ごんぎつねの世界」が開かれています。
南吉は1913年、愛知県半田町(現半田市)生まれ。旧制半田中学入学後、児童文学の道を歩み始めました。1931年から、鈴木三重吉主宰の「赤い鳥」に童話・童謡が掲載されだします。東京外国語学校に入学した頃から体調を崩しがちになり、卒業後いったん就職するも帰郷、幾つかの仕事の後、1938年安城高等女学校の教諭に。発表の場も広がり1941年に初めての単行本『手毬と鉢の子』、翌年第一童話集『おぢいさんのランプ』を刊行します。しかし病状が悪化、1943年、咽頭結核のため満29歳でこの世を去りました。
生前2冊しか刊行できなかった南吉の作品は、盟友だった巽聖歌、与田準一らの尽力で次々と出版され、名声を博すようになりました。夭折した童話作家として「北の(宮澤)賢治、南の南吉」などと言われますが、児童文学者の鳥越信さんは「巧みなストーリー性、豊かな空想性、土俗的なユーモア、生活に密着した郷土性、ユニークな味をもつ語り調の文体、善意を基調としたヒューマニズム」などを特徴として挙げています。また、養子に出されるなど幼少時の複雑な家庭環境が、少なからず後の作品に投影されています。
今回の展覧会では、愛知県半田市にある新美南吉記念館の所蔵資料を含め、原稿、日記、書簡、遺品、挿絵原画など約210点を展示し、その芸術を多角的に紹介。ほかに文芸講演会、朗読会、ギャラリートーク、おはなし会なども開催されます。個人的には、第一童話集『おぢいさんのランプ』の挿画が、世界的な板画家・棟方志功であることに驚かされました。この展覧会は兵庫県丹波市と堺市を既に巡回し、今後は、12月から来年1月にジェイアール名古屋タカシマヤで、2月から3月に静岡市美術館で開催されます。
(参考資料:『日本近代文学大事典』講談社、新美南吉記念館ホームページ、新美南吉生誕100年記念事業実行委員会ホームページ)
※ 同展は10月21日まで午前9時半-午後5時。月曜休館(祝日は開館し翌日休館)。入場料は一般600円、高大生350円、小中生250円。