熊本県南部を流れる日本三大急流のひとつ、球磨川にある県営荒瀬ダムの撤去工事が始まってひと月。全国で初めて本格的にダムを取り壊す工事となり、「壊す公共工事」の試金石と言われています。
八代市坂本町(旧坂本村)にある荒瀬ダムは、戦後の電力不足を解消する目的で「球磨川総合開発計画」に基づき1955年に完成しました。発電で産業を支えてきたとはいえ、放水による振動被害や洪水被害の拡大、さらに水質・河床環境の悪化によるアユの激減などに流域住民は悩まされてきました。
潮谷義子前知事が2002年に老朽化や川の水質悪化などを理由に撤去を決めましたが、その後就任した蒲島郁夫現知事が一転してその計画を凍結。しかし地元市民グループや漁協の強い反対を受けて再び撤去に方針転換と、情勢に翻弄されてきたのです。結局荒瀬ダムは、2010年3月まで稼働しました。
工事期間は2017年度までで、経費は護岸補強などを含め88億円。戦後に建てられたインフラ施設の多くが耐用年数に近づいている中、本格的にダムを撤去する全国で初めてのこの工事は、工法面からも環境対策面からも注目されています。撤去後にもとの清流を取り戻せるよう、期待したいところです。