戦後の日本の歴史学に大きな影響を与えた石母田正(いしもだ・しょう)が亡くなってきょう1月18日で27年。彼の著作によって歴史学者を志した人は多いようです。
石母田は1912年札幌市に生まれ、宮城県石巻市で育ちました。旧制二高を経て、東京帝国大学文学部西洋哲学科に入学。後に国史学科へ転科し、歴史学者への道を歩み始めます。1937年の卒業後、史的唯物論に立った日本史研究を深めました。代表作『中世的世界の形成』は1944年に書き終えられましたが戦災で焼失、敗戦によって今こそ発表すべきだと自宅に籠もってひと夏で再び書き上げたという“神話”があります。
1946年に刊行されたこの『中世的世界の形成』は、ある荘園を舞台に、古代から中世への変革過程を実証的・理論的に描き出した古典的名著です。また『日本の古代国家』『平家物語』などの著作のほか、古代家族・奴隷制に関する論文も多く執筆しています。武者小路穣との共著『物語で見る日本の歴史』は、網野善彦さんが甥である幼い日の中沢新一さんに与えたそうです。1948年からは法政大学の教授を長く務めました。
また石母田は、「国民的歴史学運動」というものを提唱しました。これは、歴史学者が一方的に啓蒙することなく、労働者・農民の闘争と連帯する中で新しい歴史学を形成しようとするものでしたが、影響下にあった共産党の方針転換などによって消滅してしまいました。この運動は、実証の軽視、政治の介入などの問題もありましたが、根本的な「歴史は誰が書くのか」という問いかけは、現在でも生きているのではないでしょうか。