「遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休める時、はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は、たゆみない宇宙の営みを告げています」…FM東京の長寿番組『JET STREAM』の初代機長(パーソナリティ)だった城達也さんは、1995年2月25日、63歳で亡くなりました。
声優としての城さんといえば、美しいバリトンを活かしたグレゴリー・ペック やロバート・ワグナー役。映画『ローマの休日』でペックが演じた新聞記者ジョー・ブラッドレーは、城さんの声でなくては思い出せません。この吹き替えは30年間に何度か取り直しているそうですが、オードリー・ヘプバーンの声を担当した池田昌子さんは、「城さんに助けていただいたからこそ、こんなに永くやってこられた」と語っています。
『JET STREAM』は、FM東京が「FM東海」と名乗っていた開局当初からの番組。日本航空の1社提供で(現在はSEIKOとの共同提供)、イージーリスニングと呼ばれる寛いで聴ける軽音楽とともに、どこからどこまでがCMか分からない旅情溢れる城さんの語りは大人気となりました。フランク・プゥル セル・グランド・オーケストラによる「ミスター・ロンリー」に乗っての、冒頭のナレーションはあまりにも有名です。
1994年2月、城さんの食道にがんが見つかり、その後も治療しながら放送を続けていました。 しかし、「自分の納得できる声が出せない」と同年12月30日の放送を最後に機長を降板し、その際、それまで決して言うことのなかった「では皆様、さようなら」と口にしました。これが城さんの機長としての最後の言葉となり、その翌年、この世を去ったのです。城さんはこの番組を27年間、7387回勤めあげました。
(参考資料:とり・みき&吹替愛好会『吹替映画大事典』三一書房)