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映画『アルマジロ』トークイベントから

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 先日、渋谷アップリンクで開催された、映画『アルマジロ』(ヤヌス・メッツ監督)上映後のトークイベントに行ってきました。

 現在、アップリンクほか各地で上映中の映画『アルマジロ』は、アフガニスタンでの戦争の最前線・アルマジロ基地に、NATO率いる「国際治安支援部隊(ISAF)」の一員として派遣されたデンマークの若き兵士たちに密着取材したドキュメンタリー。兵士たちのヘルメットにカメラを取り付けて撮影したという、銃弾が飛び交う音までをも捉えた生々しい映像は、あまりの「リアルさ」ゆえに、逆にそれがノンフィクションであることを忘れそうになります。また、営舎に戻った兵士たちがミーティングを終え、シューティングゲームに興じたりする、「戦場の日常」ともいうべき様子にも、なんとも不思議な気持ちにさせられました(マガ9レビューはこちらから)。

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映画画像はすべて『アルマジロ』より。渋谷アップリンク、新宿K's cinema、銀座シネパトスほか全国順次公開中

 

 さて、1月22日のトークイベントに登場したのは、おなじみ伊勢崎賢治さん。かつて日本政府代表として、アフガニスタンでの武装解除に携わった伊勢崎さんは、「(作中でデンマーク軍兵士らが参加している)ISAFは、『国として立ち上がったばかりのアフガンを国際社会が助けよう』という名目で派遣されたもの。僕自身も、当時はアメリカの考える『民主主義』を根付かせることがアフガンのためになる、と思って協力した。ただ、それが正しかったのかどうか、今は正直言ってわかりません」と、率直に語ってくれました。

 安倍首相による「解釈改憲で集団的自衛権行使を可能に」という主旨の発言が注目を集めている現在。それが実現すれば、日本の自衛隊も、ISAFのような「国際平和活動」に、デンマーク軍と同じく「兵士として」派遣される可能性が出てきます。

 「日本がこれから、アメリカのやる戦争に黙って付き合うのか、それとも冷静な目で見て判断するのか。できれば後者でありたいという思いはありますが…日本は戦後60年以上、少なくとも直接的には戦争で人を殺さずに来た。こんな国はほかにありません。私たちが、それを国益と考えるのかどうかということですね」

 また、トークの終盤で伊勢崎さんが警鐘を鳴らしたのは、現在の日本がはらむ「戦争への道」の危険性。「戦争を起こすのは民衆の、“恐怖”から生まれる“熱狂”です。原発による放射能被害という“恐怖”があり、経済も低迷し、政治にリーダーシップがなくて将来へのビジョンが見えない今の日本は、第二次世界大戦前とよく似ている。戦争へと向かう条件が揃っています」という言葉には、ちょっと緊張させられました。さらには「僕が戦争を起こしたいと思う立場の人間なら、今は絶好の機会だと考えて脅威を煽るでしょうね。例えば、『放っておいたら原発が攻撃される、その前に北朝鮮を先制攻撃しろ!』とか」とも。

 一方で、「戦争は権力側の都合だけではなく、民衆と政治との相互作用で起こるもの。時には腰の引けている政府を民衆が戦争へと『引きずっていく』こともある」と伊勢崎さん。「良い悪いではなく、こうしたメカニズムを私たちがきちんと認識しておくことが重要です」との言葉で、トークは締めくくられました。

 

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伊勢崎賢治さん。(写真はアップリンク提供)

 一方その翌週、1月30日の上映後トークイベントでは、ベストセラー『世界がもし100人の村だったら』を世に広めたことでも知られる翻訳家・池田香代子さんが登壇。「この映画を3回見ましたが、『何を』見たのかいまだに整理がつかないでいます」と、映画を見ての衝撃を語りました。

 自分たちの撮影した映像を見て「ゲームみたいだ」と思った、というヤヌス・メッツ監督の発言に言及し、「ホンモノの戦闘を撮影してみたら、ゲームのようだった。言い換えれば、私たちはゲームの中ですでに知っている『戦争』を、後追いで現実として見ている。自分たちが二重三重に倒錯した世界に生きていると感じて、スクリーンを見ながら吐き気がした」と振り返った池田さん。登場する兵士たちがみな、一度は平穏な生活に戻りながらも、自ら戦場に戻ることを選んでいることにも触れ、「普通の男の子たちの『精神が壊れていく』ところを記録されてしまったという怖さを感じた」と話しました。

 さらに、トークのテーマは「自衛隊」へと移行。自衛隊を「国防軍」にしようとする自民党改憲案では、同時に軍法会議の設置が定められています。池田さんは、「映画の中でも、本来なら戦争犯罪になる行為が、仲間意識で正当化され、最終的にはうやむやになっていく」様子が登場することを引き合いに出し、その危険性を指摘していました。

 尖閣諸島をめぐる緊張などを理由に、「軍隊を持つ」ことの必要性を叫ぶ声もありますが、池田さんは「尖閣の問題なども、再度『棚上げ』にするなどの案も含めて、話し合って落としどころを見つけるほうが、戦争よりも『安上がり』でもある」ときっぱり。「『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して』と述べる憲法前文は、そうして問題を一つ一つ、丁寧に解決していく『外交力』を世界一強める、ということだったのではないでしょうか。実際には外務省は、その努力をまったくしてこなかったわけですが…」

 また、「自衛隊は、今後どうなっていくべきなのか?」という質問に答え、「高いアメリカの武器を買うよりも、『病院船』をつくって各地に派遣すればいいのでは」との提案も。「国内外で災害救助などに活躍するハイパーレスキュー隊は、一般の軍隊のような迷彩色ではなく赤いヘリで救助にあたります。誰が見ても『命のヘリ』だとわかるその姿を、現地の人たちは熱狂的に支持すると聞きます。そしてそのヘリには日の丸がついているわけで…夢だと言われるかもしれないけれど、自衛隊もそういう方向に向かっていくことはできないでしょうか。そうするうちに、日本を攻撃しようとする国は『あの日本を攻撃するなんて』と、世界から総スカンを食らうようになるかもしれない。そうして、武力ではなくて道義で国を守るのはとても『かっこいい』と思います」。

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池田香代子さん。(写真はアップリンク提供)

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 トークの内容が、2日とも「自衛隊」や「国防」「改憲」などに触れるものになったのは、映画の内容はもちろん、現在の政治状況を考えれば当然と言えるかもしれません。

 そして、それに対してそれぞれに異なる意見を聞かせてくれた伊勢崎さんと池田さん、お2人を迎えての「マガ9学校」が、3月23日(土)に開催されます。テーマは<世界にもし100通りの「平和」があったら〜それでも、9条の「非戦」は有効か?>。伊勢崎さんのもとで平和構築について学ぶ東京外大生たちによる、世界各国の「平和観」についての報告をもとに、日本の「平和観」とは何か、そしてそれはいまの世界の中でどんな意味を持っているのかについて考えます。

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 『アルマジロ』も、全国各地でまだまだ上映中。すでにマガ9学校にお申し込みいただいている方も、「予習」として、いかがでしょうか?

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『アルマジロ』公式ウェブサイト: http://www.uplink.co.jp/armadillo/

公式twitter: https://twitter.com/armadillo_jp

公式facebook: http://bit.ly/armadillo_FB 

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