映画『東京物語』の子に疎まれる父、『男はつらいよ』の御前様などの名演技で、未だに根強い人気のある俳優・笠智衆(りゅう・ちしゅう)。彼が亡くなって3月16日で20年が経ちます。
笠は1904年熊本県生まれ。生家は寺で、「智衆」という名前は本名です。東洋大学を中退し、松竹キネマ蒲田撮影所の第1期研究生として入所。父の死で一度実家の住職を継ぎながら最上京し、映画俳優に。最初のうちは端役でしかありませんでしたが、映画監督・小津安二郎と出会ったことから運命が変わります。1936年公開の小津初めてのトーキー作品『一人息子』の大久保先生役を演じ評判に。この役は老け役でしたが、笠は当時まだ32歳だったのです。
小津作品での笠主演と言えば、やはり1953年公開の『東京物語』でしょう。子らに邪慳にされる老親を演じ、観客の深い感動を呼びました。この作品は世界的にも高い評価を得ています。小津のほか、稲垣浩『手をつなぐ子等』、木下惠介『カルメン故郷に帰る』などほかの監督の作品にも出演。山田洋次『男はつらいよ』シリーズでは、1969年の第1作から1992年の第45作『男はつらいよ 寅次郎の青春』まで御前様役を23年にわたって務め、彼の代表作となりました。
テレビドラマでも『幻の町』(北海道放送)、『波の盆』(日本テレビ)などの佳作を残しています。笠の台詞の特徴はその熊本訛り。デビュー当初はこれが障害となってなかなか役にありつけなかったといいますが、ほかの俳優にない朴訥さが滲み出る語り口となりました。師と仰いだ小津の墓への墓参は生涯欠かさなかったといいます。「日本のお父さん/おじいさん」と親しまれ、無声時代からトーキー、モノクロからカラーまで、日本映画の歴史とともに歩んだ生涯でした。