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日めくり編集メモ 427

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「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」をモットーに、数多くの戯曲や小説を著した井上ひさしさん。その足跡を振り返る「井上ひさし展-21世紀の君たちに-」が、あす20日から横浜市の神奈川近代文学館で開催されます。

井上さんの著作の多さはいまさら言うまでもありませんが、きちんと向き合うとその幅広さに圧倒されます。直木賞を受賞した『手鎖心中』などの歴史もの、『ブンとフ ン』などのナンセンスもの、『吉里吉里人』などの大長編、また『藪原検校』『小林一茶』『父と暮せば』などの戯曲、さらにNHKテレビ「ひょっこりひょうたん島」やフジテレビ「ムーミン」といった子供向け番組の脚本やテーマソングの作詞…。どれも有名でありながら代表作として1つ選ぶのが困難なほどです。

今回の展覧会は3部構成。まず第1部で作家となるまでの歩みを辿り、第2部では21世紀へのメッセージを、『吉里吉里人』『きらめく星座』などの作品に読み解きます。第3部では、書物に遺された過去を物語に再生し、 同時代、そして未来の人たちへ手渡す「中継走者」としての創作活動を、蔵書や創作メモ、愛用の文具などで展覧するということです。展示の手帳や原稿用紙に埋められた独特の丸っこい文字は実に読みやすく、井上さんの息遣いが聞こえてくるようです。

また記念イベントとしては、夫人のユリさんと展覧会の編集委員松山巖さんの対談や、東京大学大学院教授小森陽一さん、演劇評論家扇田昭彦さんの講演会、俳優辻萬長さんによる朗読会、また井上さん最愛の映画『ミラノの奇蹟』の上映と盛りだくさんです(要別途料金)。過酷な状況にありながら笑いを忘れない登場人物を描ききり、一方、平和や護憲運動にも力を尽くした井上さん。その愛すべき作品群は、混迷する現代を生きる私たちへの示唆に富んでいます。

※ 「井上ひさし展-21世紀の君たちに-」は県立神奈川近代文学館で、2013年4月20日(土)から6月9日(日)まで開催(休館日は月曜日=4月29日、5月6日は開館)。

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