1996年から約2年間、東京・新宿駅西口通路に出現した段ボールハウスの「村」。そこで生活する人々を撮影した写真展が、新宿の3カ所で開かれています。
この展覧会は、「『新宿ダンボール村』迫川尚子写真展 1996-1998」。撮影したのは、「新宿駅の小さなお店」BERG(ベルク)の副店長であり、写真家でもある迫川尚子さんです。毎日お店に通う傍ら、 駅のど真ん中に出現したホームレス村とその住人たちをレンズでとらえました。段ボールハウスの室内やそこに描かれた絵、住人の生き生きとした表情などは、「村」に入り込んだからこそ写せるものなのでしょう。
1988年着工、その2年後に完成した東京都庁舎建設に従事した日雇い労働者もこの「村」には多かったといいます。バブルが崩壊した後は路上生活者が急増し、1996年1月の動く歩道設置のための通路脇で生活していた彼らを都は強制排除しました。その後、新宿の地下広場に段ボールハウスがつくられていきます。多いときは200人から300人もの人々が生活し、1998年の自主解散まで「村」は続きました。
横になれないベンチばかりが設置され、ホームレスの存在さえ許さない無味乾燥な街にどんどんなっていく新宿。迫川さんは、「悲しみを抱えた住人にとり、段ボール村は新宿の最後の良心、ふところだった。存在をあらためて知ってほしい」と語っています。この写真展は同名の写真集の出版を記念するもので、紀伊國屋フォーラム、BIBLOPHILIC & bookunion新宿、そしてBERGでこの月末まで開催しています。
(参考資料:「ふところに入り記録 新宿『段ボール村』 迫川さんが写真集」東京新聞東京版2013年5月9日付)