幅広い著作と「老人党」などの活動で知られた作家で精神科医のなだいなださんが亡くなりました。そのペンネームはスペイン語の“nada y nada”(何もないと、何もない)に由来するものです。
なだいなださんの本名は堀内秀(しげる)。1929年東京に生まれ、旧制麻布中学を経て、慶應大学医学部へ。在学中にアテネフランセにも通い、フランス語を習得。フランス政府給費留学生制度によって留学した先でフランス人女性と結婚しました。卒業後は医師として病院に勤めながら、同人誌「文芸首都」に参加して小説を発表。芥川賞候補に6回ノミネートされながら受賞はできませんでした。
1965年発表した『パパのおくりもの』は、軽妙でエスプリに富んだ文章で文明や社会を批判しながらも、家族への愛に溢れたエッセイとして注目を浴びました。また本業である医師としてアルコール依存症を扱った『アルコール中毒 社会的人間としての病気』は、苦しむ多くの患者の指針となりました。『人間、この非人間的なもの』『お医者さん』『TN君の伝記』など、著作は枚挙に暇がありません。
2003年には、インターネット上で結成した「老人党」で話題を集めます。老人や弱者をいじめる政治を憎み、新風を吹き込むため、失うもののない老人こそ立ち上がれという、彼らしい行動でした。2011年に前立腺癌を発症し、闘病しながら執筆。「ちくま」2013年3月号の「“賢い国”というスローガン」では、自民党的「強い国」への違和感を強烈に訴え、天野祐吉さんはこれを「遺言」と評しています。
(参考資料:「なだいなだのサロン」、なださんのこと「天野祐吉のあんころじい」)