昨年12月、松江市教育委員会が、学校図書館から漫画『はだしのゲン』を閉架扱いにするよう要請し、市立小中学校がこれに従っていたことが明らかになりました。
『はだしのゲン』は、昨年12月に亡くなった中沢啓治さんが自らの被爆体験をもとに描いた漫画作品として有名です。1972年に「週刊少年ジャンプ」で連載が開始され、日本国内では単行本、文庫本などを含めた累計発行部数は1000万部を超えています。また、英語、ロシア語など準備中も含めて19の言葉に訳され、作者の死後もなお被爆や戦争の悲惨さを世界中に訴え続けています。
松江市内に店舗を持つ高知県在住の人物が昨年4月、市教育委員会に対し、学校図書館から『はだしのゲン』撤去を求める抗議を行い門前払いに。市議会に同趣旨の陳情を行ったのが昨年8月。翌月審議が開始され、12月5日に全会一致で不採択になりました。しかし委員会では「表現の問題性」を認める意見も出ており、それで市教委が独自に動き出し、要請につながったようです。
粘着的な抗議に音を上げ、「撤去」までいかぬ「閉架」を落とし所にしたのかも知れませんが、表現の自由の観点から決して譲ってはならない一線だったはずです。学校の図書館とは、児童や生徒が知らない本に出合う場所。読みたい本の申請が必要な閉架には馴染みません。本との偶然の出合いが「不快」だとしても、それを子供に感じさせない施策は、果たして教育といえるのでしょうか。