最近は公で行っていた仕事を民間に任せる例が多くなっていますが、佐賀県武雄市が図書館業務運営を、レンタルソフト大手「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に委託すると発表しました。「知る自由」や「プライバシー」との兼ね合いはどうなるのでしょうか。
武雄市の樋渡(ひわたし)啓祐市長はFacebook市長とも呼ばれ、市職員全員にFacebookのアカウントを取得させたほか、自身もSNSでの情報発信に熱心なことで知られます。今回の委託は市長のかねてからの構想だったそうで、貸出カードをTカード(CCCの利用カード)に切り替えて、本を借りるとTポイントがつくようにするとのこと。開館時間は年中無休で午前9時から午後9時までとし、館内での雑誌や文具の販売など、従来の図書館とは違ったサービスを考えているようです。
一方、会見で樋渡市長は貸出履歴を個人情報と考えていない旨を明らかにしているうえ、CCCの担当者もデータベース化の検討を明言しています。しかし、民間企業が図書館利用者の個人情報を利用することを許すとは、「図書館の自由」を否定するものであるとしか考えられません。何を読書したかは利用者の秘密であり、思想信条の自由に直結するもの。「知られるとまずい本を借りるな」という人もいるようですが、「後ろめたくなければ監視されてもよい」とする発想と同じです。
先日の小欄でもお話ししたように松山市では水道事業を外資系企業に委託しています。図書館もその例に漏れず、コスト削減のため民間へ委託する流れとして俎上に上がってきたのかもしれません。樋渡市長は会見で、指定管理者の公募を行わずCCCに決めた理由を「テレビで見たCCCの増田(宗昭)社長にシビれた」と話していますが、事は貸出履歴といった「知る自由」や「プライバシー」に関わる問題です。利便性やオシャレさの対価としてはあまりにも高いのではないでしょうか。
(参考資料:Ustream「武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について」、「図書館をTSUTAYAのように…と市長が構想」読売新聞2012年5月5日付、「図書館で本を借りたらTポイント」TSUTAYAが公立図書館運営へ―Facebook市長「本の貸出履歴は個人情報ではない」マイナビニュース2012年5月4日付、「武雄市長、会見で怒り露に『なんでこれが個人情報なんだ!』と吐き捨て」高木浩光@自宅の日記2012年5月4日)