先日小欄でも少しだけ触れた、元慰安婦の女性を写した写真展が中止に追い込まれた件ですが、写真家が開催を求めた仮処分の申請に対し、東京地裁は運営者に開催するよう命じました。
写真家アン・セホン(安世鴻)さんは、中国各地で暮らす元従軍慰安婦の女性12人を撮影し、光学機器メーカーのニコンが運営する展示会場「ニコンサロン」に応募。選考の結果開催が決まったにもかかわらず、脅迫めいたネットの書き込みや抗議電話があり、突如中止となりました。ニコンは、「表現の自由」よりもリスク回避を選んだようです。
この9月公開予定のアニメ映画『アシュラ』は、ジョージ秋山さんの同名漫画が原作です。1970年に「週刊少年マガジン」で連載された際に、人肉食などの描写から有害図書として糾弾された問題作ですが、評論家の竹熊健太郎さんによると、この作品は編集部の企画であり、連載中止は考えなかったと当時の編集長・内田勝さんが語ったとのこと。
これは、「漫画が一番熱かった時代」だからそう出来たのかもしれませんが、「作品を世に問う」という腹が据わっていました。確かに問題は起きない方がいいし、起きたら文句を付けられた部分を排除して進めれば「楽」でしょう。しかし、こうしたあまりにも過剰な危機管理意識が、かえって息苦しい時代の空気を作り出しているのではないでしょうか。
(参考資料:「ニコン 元慰安婦写真展中止問題 抗議に企業 過剰反応」東京新聞2012年6月23日付)