11日午後の地震は、筆者のいた東京・神保町でも大きな揺れを感じ、立っているのがやっと。しかし青森から茨城までの広い範囲で、それどころではなかったのですね。亡くなった方にお悔やみと、被災された方にお見舞いを心から申し上げます。
■「助走」がなかった日本メディアの中東報道
今回の一連の中東での動きについて、日本での報道にはいろいろ批判もあるけれど、基本的には悪くなかったのではないか、と僕は思っています。
ただ、気になったのはそこまでの「助走」がなかったということ。普段、何もニュースが伝えられていないのに、突然「エジプトで30年続いた独裁政権が...」と言われても、情報を受け取る側は「何のこと?」となっちゃいますよね。こういう過去があって、今こうなってるんだな、という日々の情報の積み重ねがないと現実味がなくて、すごく遠い世界の話に聞こえてしまう。リビアのことについても、いくら新聞の一面に載っていても「大変だね」で終わってしまうのではないでしょうか。
その意味でも、僕は日本のTVに「ニュースチャンネル」がないことが昔からすごく疑問なんです。CNNやBBC、アルジャジーラのように、一日中国内外のニュースをやっていて、世界全体で何が起こっているのかを伝えるチャンネル。もちろん、みんな興味のあることは自分でインターネットで調べたりもするでしょうけど、まず「今何が起こっているのか」をオールマイティに伝えるのは、やっぱりメディアの役割でしょう。今のリビアや中東で起こっていることについて知らないし興味がないという人が多いのも、その人たち自身というよりはメディアの責任だと思います。
※写真は2月26日に東京・代々木で行われた街頭アピールより。(撮影:高橋真樹)
2月には、東京のリビア大使館前などで、「虐殺をやめろ」と訴えるデモやアピール行動をやりました。政治的なアピールというよりは、とにかく虐殺を、人権弾圧をやめてくれ、ということを訴えたくて。最初はフェイスブックなどでつながった在日リビア人コミュニティでの発案だったのですが、ツイッターでリビアについての情報を発信したりするうちに広がって、日本人の参加者も多かったし、取材に来てくれたメディアもありました。
ただ、デモなどで伝えられることには限界もあるし、次の段階を考えようということで、日本国内で人道支援のための募金を集めて、それを「国境なき医師団」を通じて現地へ届けようという「SAVE LIBYA(仮)」プロジェクトを立ち上げようという話もしています。
今は、ツイッターなどを通じて、個人が簡単に情報を発信できる時代。デモなどに来てくれた人たち、それを見ていた人たちが、どんどん自分で周りに情報を広げていってくれれば、と思っています。(了)
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お話を伺ってから数日の間にも、リビア情勢は急速に動き続けています。被害がさらに拡大し、チュニジアなどへ数万人の難民が押し寄せているとの報道も。一方でアーデルさんは、「すでに数千人が死亡」との民間団体からの情報に、「本当だとしたら大変なことだけど、海外勢力の軍事介入を正当化するために流されている情報の可能性もあるのでは」との懸念も見せていました。
私たちが、国際社会がやるべきことは何か? 引き続き、考えていきたいと思います。アーデルさん、ありがとうございました。
■リビアの問題は、リビア人の手に
いずれにしても、もちろん話し合いで内政が落ち着けば一番いいとは思うけれど、それができるようならそもそも40年間の独裁は続いてこなかっただろうし、リビアが変わるためには、今の国内での衝突は絶対に避けられないものだとも思います。
でも、それはあくまで「リビアの問題」であって、他の国々に介入はしてほしくない、というのが僕の意見です。もちろん、医療や食糧といった人道的支援については100%サポートを求めるし、資産凍結などカダフィとその一族に限定した今の国際社会の制裁(※)はベストな形だと思うけれど、それ以上の軍事的・政治的な介入はしないでほしい。40年間泣き寝入りしてきた人たちが、やっと動き出したんだから、それを邪魔しないでほしいという気持ちがあります。
というのは、アメリカなど国際社会の介入によって、事態は今よりさらにひどくなるのではないかという懸念が、リビアだけではなくアラブ社会全土に強くあるからです。イラクがまさにそうですよね。アメリカなどが軍事介入したことによって、フセインという「蓋」がなくなって、イラクが抱えていた中の問題が一気に噴出してしまった。リビアもそうなってしまう可能性は十分にあるし、今「カダフィ支持派」とされている人の中にも、「それならカダフィのほうがまだまし」という思いで政府寄りの立場を取っている人は少なくないと思います。僕もその気持ちはよく分かりますね。
以前のリビアに西洋型の「自由」はなかったかもしれない、という話をしましたけど、僕はすべての国に西洋型の民主主義や自由がなくてはならないとは思わないんです。地域や文化によってそれぞれのベストなやり方は違うし、ある地域ではそれが「独裁」かもしれない。でも、そこに暮らす人たちがそれでいいのであれば、それが逆に本当の民主主義なんじゃないかと思うんですよね。
だから、国際社会には基本的に「ノータッチ」でいてほしい。今、東部で暫定政権を立ち上げようとしている元法務大臣のアブドルジャリルにも、アメリカ政府が接近している可能性が指摘されていますけど、アメリカの後ろ盾で新政権が誕生したというようなことになれば、国民の不満はまた高まるでしょう。そうではなくて、リビア人の問題はリビア人が解決するというスタンスのままのほうが、最終的にはうまく収まるんじゃないかと思うんです。(3へ続く)
※国際社会の制裁...2月末、国連安保理事会は、カダフィとその家族に渡航禁止や資産凍結などを科す制裁決議案を全会一致で採択した。日本政府もこれを受け、出入国の禁止や資産凍結などの措置を決定している。
2月に始まった反政府デモが急速に拡大し、「内乱状態」とも伝えられるリビア。人々を立ち上がらせたものは何だったのか、状況は今後、どうなっていくのか。日本生まれリビア育ちのアーデル・スレイマンさんへのインタビュー、サイトで公開した<前編>に続き、後編をブログで先行公開します。
前編はこちらからお読みください。→http://www.magazine9.jp/other/libya/
■「内戦」はさらに長引き、激化する?
僕自身は、個人的には「独裁」が必ずしも――特にリビアにとっては――悪いわけではないと思っています。でも、革命当時のカダフィは確かにカリスマだっただろうけれど、独裁は長く続けば必ず腐敗する。経済状況などを考えても、カダフィの存在はやはり今のリビアにとってマイナスだと感じていました。何とかして、リビアは今後変わらなきゃいけないだろう、という思いはあったんです。
でも、最初に反政府デモのニュースを聞いたときは、複雑な気持ちになりました。チュニジアやエジプトと違って、リビアの軍隊は即座に市民に向けて実弾を発砲するからです。2005年の「2・17」も含め、反政府の動きに関してはいつもそうだったし、今回もやはりそうだった。争いが拡大する中で、最近では外国からの傭兵が投入されているとも言われていますよね。そんな状況下で、国民がいまさら政府に従うわけはないと思うし、でもこれ以上犠牲は出てほしくないし、だけど国民の要求は実現されてほしいし...とても複雑な思いがあります。
エジプトなどでは大統領が国外脱出の道を選びましたけど、カダフィについてはその可能性は低いのではないかと思います。リビアからは絶対に出て行かず、徹底して戦う、逃げるよりはリビアで死ぬ方を選ぶのではないか。そう考えると、戦闘はさらに長引いて、激しくなっていく可能性が高いし、政府側だけでなく反政府側も武装している今の状態は、もうすでに「内戦」と言えるかもしれません。
そして、その結果としてはいろんな可能性が考えられます。例えば反政府側が掌握している東部だけが独立して、トリポリを含む西部はそのままカダフィの政権下に残る、といった可能性もゼロではないでしょう。ただ、その場合ももちろん東部が以前のリビアに戻るというのではなく、徹底的に反政府勢力が弾圧される、恐怖政治の時代という最悪の状況になるでしょうが...。(2へ続く)
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